淡中 圏の脳髄(永遠に工事中)

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Don't panic!

Misrouter

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よく部屋に来る友人がいて、スマホやノーパソを勝手に俺のwifiルーターにつなげていた。別にそれくらいいいやと思っていたが。

先日もそいつは用もないのに部屋に来て床にひっくり返ってスマホの画面を眺めていた。ノーパソの充電までしている。

そこで俺は気づいて言った。「そうだ、wifiルーター変えたから、それモバイル通信だろ。パケット代かかるよ?」

すると一瞬だけ視線をスマホの画面から外し、ちらりと俺の顔を見て「え? 繋がってるよ?」と言う。

「は?」思わず眉間に皺が寄る。そんなはずはない。食い下がるが「パソコンも繋がってるよ。こっちはwifiじゃなければ勝手にネットに繋がったりしない。テザリングもしてない」

そんなことがあるか。そう思って自分のスマホの設定を開く。新しいネットワークに繋がっている。しかししばらく待っていると、ネットワークの中に以前のネットワークの名前が現れた。

おかしい。あり得ない。ルーターを見に行く。新しいルーターが起動している。ネットワークの名前もパスワードも以前とは違う。首を捻って部屋に戻ろうとして何かを蹴っ飛ばす。以前のルーターの箱だ。捨てようかと思ったが、もしかしたら売れるかと思って箱に入れてほったらかしにしていたのだ。

中を見る。もちろん電源は入っていない。そもそもコンセントに繋がっていない。この状態で電波が出るのか? そんなはずはない。と思う。

「やっぱおかしいよ」

答えはない。画面を一心に見て、ニヤニヤしている。ときどき声を出して笑っている。「本当にネットに繋がってる?」やはり返事はない。

自分で繋げて確かめてみるか。そう思って、存在しないはずのネットワークの名前をタップ。クルクルと待ちのアイコンが回る。繋がる。以前のパスワードがそのまま使えるのだ。これでブラウザを開けば、インターネットに繋がっているかがわかる。ブラウザのアイコンをタップしようとする。

なぜか指が震えた。

「本当に繋がってるのか?」

自分でもしつこいと思ったがもう一回聞く。

「おい、答えろよ」とイライラしながら顔を覗く。どうしてこんなに声が裏返る? どうしてこんなに焦っている? どうしてこんなに汗が噴き出すんだ?

小さな画面から目を離さない。こちらを見ようともしない。何のページを見ているんだ。youtubeか。いや、youtubeか、これ? 似ているが、違うような。でもやはりyoutubeか。

何の動画を見ているんだ。真っ白な部屋。机。男が突っ伏している。嗚咽を漏らして泣いている。ときどき絶叫する。恐怖に髪を掻き毟る。

こんなのを見て何を笑っているんだ。何が面白いんだ。

画面の中の男が見覚えのある顔をあげた。

自分の動画を見て笑っているのか? そう思った瞬間、目があった。そいつは画面の向こう側から確かに俺の顔をみた。そして「助けて」と叫んだ瞬間に見えない力に真上に引っ張られて首が千切れ、カメラのレンズが真っ赤な血に染まった。

部屋の中に笑い声が響く。

手の中でスマホが震える。いつの間にかブラウザが開いていた。見慣れた検索エンジン。しかしどこかが違う。色合いか、それとも微妙なフォントか。とにかく何かが崩れて、それが偽物だと直感に訴えかける。

何も操作しないのに、検索欄に文字が打たれていく。

それは俺の名前だった。

「うわーーーーー!!」

俺は叫び、、思わず左手に持っていたルーターを壁に投げつけた。そして跳ね返って床に転がったそれを何度も何度も足で踏みつけた。破片が足の裏に刺さっていたかったが、それでも踏むのをやめなかった。

がさりと何かが動く気配がし、破片の中から手のひらくらいの大きさの黒い虫のようなものがゾロリと這い出して、家具の隙間の闇の中に消えた気がした。しかしその直後に俺は気絶して床に伸びてしまったので確かな記憶がない。

気がつくと、俺たちは二人で部屋に寝ていた。何が起きたかを覚えていたのは俺だけだったようなので、いつの間にか二人とも寝ていたということにした。

効果があるとは思えないが、次の日殺虫剤を部屋に撒いた。

それ以来、確かな正体のわからないネットワークには絶対に繋げないし、少しでも不安のあるときはブラウザを開いたりはしないようにしている。

解説

第二回ブンゲイファイトクラブ落選作。

存在しないWi-Fiネットワークになぜか繋げてしまうのは知り合いの部屋で体験した実話。

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